抹茶用の品種~茶道家が知らないこと

「茶道家って製茶について知らないですよね」

 

茶道の先生というのは、茶の生産や製造に興味ない人が多いように思いますと、茶業者の方から言われたことがあります。

 

今回は、抹茶の生産現場を見せていただきましたので、覚書としても書き残しておきたいと思います。

 

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宇治 上林記念館 秀吉の宇治茶園の関心を著わした書状

(秀吉のころは茶園の管理から気になっていたことが書状からもわかります)

 

宇治駅近くには、抹茶を品種ごとに飲み比べることができる日本茶カフェ「GOCHIO」があります。

 

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こちらで、まず、「あさひ」「さみどり」の二種を試飲しました。

 

果たして、品種ごとにそれほど違いがわかるものなのでしょうか?

抹茶を茶室ではいつも、茶師が合わせてくださったものは飲み比べる(濃茶)ことはありますが、品種ごとに飲む機会がなかったので、半信半疑で薄茶を一口。。。

 

すると!非常にそれぞれの個性が際立って感じられ、驚きました。

 

あさひ:ずっしりとしたボリュームが舌に広がり、絵で例えるなら大きな山、音楽なら重低音を奏でているような味香です。

 

さみどり:一本の線がすーっと描かれていくようなすっきりとした味、その線は横ではなく縦に伸びていくような味わいですので、高音で細い音がする楽器をイメージしました。

そんな感動を受けて、いざ、茶園にお伺いすると、、、

 

すっと直立型で伸びた新芽、葉の姿もすっきり。そんな茶樹が覆いを掛けた茶園の下で、すでにたくさんの新芽を蓄えていました。

 

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そう、これは、お味のイメージと同じ、「さみどり」です。

そして、後ろを振り向くと、ぽってりと広がる深い緑の葉がついたこの茶樹。

こちらが「あさひ」です。

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「私たちは、二葉目くらいの新芽を直接口に入れて、畑の状態を看ます」

園主の清水さんが、「あさひ」と、「さみどり」の芽葉を試食させてくださいました。

 

先ほどいただいた薄茶と共通の味がして(それは煎茶よりもより強く感じられ)、抹茶は茶葉を粉砕してそのままいただくのだから当たり前と言えば当たり前なのですが、再度、驚きでした。

 

また、摘み方が「あさひ」は葉だけを摘む「しごき摘み」、「さみどり」は、柔らかい茎の部分も一緒に摘む「折り摘み」であることを教えてくださいました。

 

しごき摘みは熟練者でないと、葉を傷めてしまうため、より難しいのだそうで、「茶摘みさん泣かせ」と言われる品種もあるそうです。

 

その違いを見れる機会があればと思います。

(所感として)

濃く点てる「濃茶」に関しては、茶室では味香を取り上げ、茶師名を聞いたりなどありますが(また濃茶を数種飲み比べる式法も江戸中期から確立されてきた)、

 

今回、品種の茶を単体で薄茶で頂いて、最終的に茶師によって調和されて濃茶となったとき、単体の楽器演奏からオーケストラの演奏のように深く、広く、豊かで、コンサートホールを出てからもしばらく余韻が続くような味わいになるのだなと実感しました。

カフェで薄茶を品種単体(今のはやりの言葉でいうならシングルオリジンというのでしょうか)で味わうのもとても抹茶としての楽しみが広がると思います。そして、それを知ると、より、茶師の方たちのお仕事を楽しく感じられるように思いました。

知るきっかけ、そして時間を与えてくださった皆様に感謝し、抹茶を、茶道を愛する方にもこれからお伝えできたらと考えております。

 

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吉野亜湖(茶道家・茶文化研究者)

Ako Yoshino

静岡大学非常勤講師

日本茶インストラクター