静岡のお茶のもてなし方が変わった日 ~江戸人の影響で急須を使うようになった話~

維新の際、旧旗本の人々を静岡に移した時の

勝海舟による~静岡の茶文化の話~に目が留まりました。

 

海舟の談話集『氷川清話兵站の記録」の中で、語られています。

「一万二千戸よりほかにない静岡へ一時に八万人も入り込むものだから、」とあり、当時、江戸から来た多くの客人たちへの静岡人の混乱の様子が偲ばれます。

そして、お茶を出すときは、

 

「土地の習慣で茶を出すにも茶釜で煎じて汚れた茶碗に汲み下女などもひびだらけの手で差し出したが、

二年、三年と年を経るに従ひ、それが段々江戸人を見習ふようになって、茶釜も急須になり、汚れ茶碗も立派な品になり、家の妻君などを着飾って茶を出すようになり(以下略)」

江戸の人たちが大量に静岡に入ってきたことで、

なんと、静岡の茶文化が変化したことがわかります。

 

これは、当時の記録として、面白い!ですよね。

 

大久保一翁は最初、こんなところで(こんな風に茶を出すような静岡に、零落したとはいえ江戸の人々を置いて)「大丈夫か」と心配していたそうですが、

 

海舟は、

「おれは心配は無用だからうっちゃっておけと言っておいた」そうです。

「世の変遷といふものは、まあ、こんなものさ」と、海舟。

ああ、当時の静岡の茶文化について語り残してくれて、本当に海舟に感謝です!

                 

吉野亜湖 (茶道家・茶文化研究者)
静岡大学非常勤講師




輸出茶ラベル「蘭字」を読み解く 「アイノ茶」の語源

アイノ茶の語源は、これか?と思われるお話し・・・・

 

幕末から日本茶の海外輸出が始まり、輸出向けに仕上げ加工の手法の違いで、主に3種類のお茶がありました。

①篭(バスケット)を用いて火入れ乾燥するバスケットファイヤード=篭茶

②釜(パン)を用いて火入れ乾燥をするパンファイヤード=釜茶

 

そして、③「アイノ茶」です。

そのアイノ茶、篭茶と釜茶の中間くらいのものだから、「あいのこ」から名称がきてるのか?などというお話もあったのですが、、、、

 

『横浜茶業誌』(昭和33年、横浜市茶商組合)p120に、当時の茶業者の古老たちのお話の中に、語源と思われる内容が掲載されていました。

 

~~当時、取引された日本茶の種類について~~(以下引用)

 

「初めの中の種類は、主として天下一(名称)でしたね。(明治十二年前後迄)丁度、楊枝位いの長さに、きれいに出来ていましたね。最も、その頃は、量といつてもいくらでもなかつた様でしたよ。包装は、ふつう、荒茶をその侭、木箱(百斤箱)に入れていました、が途中、ちょつと大海(ダイカイ 紙袋)になつた事もありました。」

 

「篭(カゴ)、釜(カマ)茶が主力となりました。」

 

「合の園(あいのえん)と言うのもありましたね。篭茶と合(ごう)したやつの事です。」

 

~~~(以上)

 

篭茶と釜茶を合した、というところから「アイノ園」→「アイノ茶」になってきたのではないかと読んでます。

また、昭和五年の『茶業年鑑』(静岡茶時報社)には、「アイノコ」からきているという説が書いてあります。

「輸出茶の主流を為す釜茶(パンファイヤードPF)籠茶(バスケットファイヤードBF)の中間にある、アイノコであると言ふ所から称している」

 

ちなみに、アイノ茶は、英語名では「ナチュラルリーフ」。

日本の蒸し製緑茶で、着色もしていないお茶です。

(参考)NATURAL LEAF 本色茶(通称「アイノ茶」):1876(明治9)年、内務省が内国博覧会跡に製造場を設け「本色茶」という無色茶の製造を奨励した。基本的には籠火入れで仕上げられた。*内地向けの「煎茶」の仕上げと同じで摩擦(白ずれ)加工をしない。(『紅茶百年史』)



(輸出茶の歴史に詳しくない方は、え?日本茶って着色してたの?という疑問も出てくるかもしれませんが、別項で着色のお茶については書くことにします)

 

アイノ茶(無着色茶)と並んで、混乱されやすいのが、「サンドライド」という着色茶です。サンドライドのお話は、次回お書きします。

 

「蘭字」と呼ばれる輸出用日本茶ラベルの文字には、当時輸出されていた日本茶の種類などが書いてありますが、どんなお茶が扱われていたのか?これから少しずつ読み解いていきたいと思います。
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吉野亜湖(茶道家・茶文化研究者)
静岡産業大学 非常勤講師
担当授業 日本茶文化史、日本茶概論、伝統文化演習

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(『蘭字』井手暢子より)

 

                 

吉野亜湖 (茶道家・茶文化研究者)
静岡大学非常勤講師