江戸の茶文化「茶運び人形」そして「茶台」~お茶の文化創造博物館の楽しみ方

新橋旧停車場に、お茶の文化創造博物館がオープン。

内覧会にお伺いしてきましたので、たのしみポイントをご紹介してきます。

 

第1回目のお話は、

江戸時代の茶文化 茶台とは?

博物館には、「茶運人形(ちゃはこびにんぎょう)」が展示されています。

茶運び人形 | NHK for School

 

4人、テキストの画像のようです

 

からくり人形の仕組みを書いた江戸時代の『機巧図彙 』に、以下のように説明されています。

 

「茶運人形」

人形が持っている「茶台」の上に茶碗を置けば、

人形が客の方へ向かっていく

その茶碗を客がとれば、人形は止まる。

飲み終わった茶碗を置けば、今度は帰っていく。(筆者訳)

 

 

細川頼直『機巧図彙 2巻首1巻』[2],須原屋市兵衛,寛政8 [1796]. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2568592/1/4

 

この「茶台」とはなんでしょうか?

 

仏具などに今も残されている茶碗を置く台です。ドーナツ型の茶托の高さがあるものというと分かりやすいかもしれません。

 

江戸末期にまとめられた百科事典といえる『守貞謾稿』という本には、1800年代前半になると、次第に小型化、簡素化されていくと記されています。

 

 

確かに、 『守貞謾稿』より 50 年ほど前に描かれた中村惕斎『訓蒙圖彙』(1789年) の絵の「茶台」は、高さがありますね。(上段が茶台、下は「さかづき台」)

 

 

茶道をされている方は、「天目台」という天目茶碗を置く台や貴人がお客様のときにこの天目台に茶碗を乗せて出すので、庶民用ではなく、高貴な方用と思われるかもしれません。

しかし、江戸時代(後期)は、庶民も用いていました。

薄い茶托の方が、かえって煎茶道など特別感があったのです。

以下は、江戸後期の浮世絵師、戯作作家としても有名な山東京伝の作品から、彼の書斎。奥様が版元(蔦屋)に、茶台で茶を出しています。

茶碗は筒型に見えますね。

山東京伝『堪忍袋緒〆善玉』1793年


そしてこちらは、東海道中膝栗毛』の作家としても知られる十返舎 一九の作品から。お姑さんの家にお嫁さんがご挨拶に行っているところ。

十返舎一九作・国貞画『結神末松山』1837年

お客様には茶台、自分は茶台なしですね。

 

江戸で評判の美女「お仙」の茶屋

こちの絵も茶台を持つ美女の絵が描かれています。

明和年間です。こちらも筒型の茶碗。

鈴木晴信「かぎやお仙」東京国立博物館

この時代、庶民が飲んでいたお茶は、茶釜などで煮出して熱々でしたので、茶台に乗せないと熱いというのもあったでしょう。

 

お仙の前の茶釜から湯気が立っているので、その温度感が伝わってきます。

 

鈴木晴信「お仙と若侍」東京国立博物館

こちらは、もう一人の茶屋の美女、「おきた」さん。18世紀。

茶屋の美女たちは、よく茶台を持っているところが浮世絵に描かれています。

喜多川歌麿筆(東京国立博物館蔵)


茶屋の美女が茶台を持った絵で、第一話は終了します。
(これは第二話以降への伏線)

オープンに向けて見どころをひとつずつご紹介したいと思います。

ぜひ皆さんも足を運んでみて下さい。

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吉野亜湖

静岡大学非常勤講師
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追記

国立国会図書館の「本の万華鏡」会える推し 茶屋娘

に掲載されている浮世絵↓

 

ここには珍しい編んだ茶台と、もう一つ、茶漉しが描かれています。
お仙よりも時代が明治に近づいている頃。

 

お仙も明治の絵師に描かれた時は、実は、この茶漉し持ってます!


豊国「東都名所水茶屋揃」『俳優団扇画』【237-377】(国立国会図書館蔵)

 

こちら、ですが、春信のお仙とあまりに離れていて驚きの、お仙ちゃんです。

豊原国周『善悪三拾六美人 笠森お仙』