一期の茶会 on 中銀カプセルタワービル

《一期の茶会》

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中銀カプセルタワービル《一期の茶会》

世界的に有名な建築家黒川紀章氏による「中銀カプセルタワービル

・・・解体が目の前という「一期(いちご)」に、

なんと、この場で茶を飲むという会を開催させていただくことができました。

 

さて、この場で、どのように茶席や茶道具を組み上げていこうか?

実は、このカプセル、黒川氏が「茶室」をイメージして設計したと聞きました。

バスルームや棚などの空間を除くと、ちょうど国宝茶室「待庵(たいあん)」と同じく二畳くらいのスペースがあります。

若い時に大徳寺の瑞峰院で茶道修業をしたのですが、そこに待庵の写しの茶室があったので、毎日掃除をしたり、花を生けたり、お客様を案内して説明したり、茶会もしたりと、、、二畳の茶室の空間意識は、体に入っていたので、実はとてもイメージがしやすかったのです。

もともと待庵も、四畳半というスクエア(正方形)の真の茶室のスペースを床や水屋(準備の場)を除いて、最終的に「二畳」という最も小さな正方形の茶席となっているので、そこも共通しているように感じています。

そして、待庵の「床の間」は、隅(角)が土で塗りつぶして丸くなっており、「角」が無いため、空間の広がりを感じる造りになっています。

それが、なんと!カプセルのバスルームの角も丸く作られていたので、ここも共通しているように見えて、妙に落ち着きました。

丸窓は、茶室では「ヨシノマド」とも呼ばれているので、こちらも勝手に親近感が沸いています。


さて、この場で、どのように茶席や茶道具を組み上げていこうか?

お客様の背に丸窓?
お客様の目線は白壁?

と、考えていくと、部屋のオーナーの方から「丸窓こそカプセルの象徴」と教えていただき、

それなら!

丸窓と点前が共に存在しているのを目にできるように、お客様に座っていただくという配置に、決定!

床に座った方は、お感じになったと思いますが、意外と「狭く」という意識よりも、「必要十分」な広さだと感じられたのではないでしょうか。

実は、茶道の教え言葉で

「二畳には客3人
四畳半には客2人まで」

と、いうのがあります。
逆でない?と、思われた方もいますよね、これでいいのです)

広ければより広さを感じるように、

狭いところはそれもあえて意識すべき、ということなのか?

または、四畳半は正式な茶室のサイズでもあるので、一人のお客様とおつきが一人だけが最も相応しい、それに対して二畳はもっと心許す人々が一つになれる空間ということなのか?

はじめてこの言葉を聞いたときは、ハテナと思いましたが、座っていただけると納得するものがあると思います。

二畳であると、

釜との距離も近く、湯の音や茶筅の音なども聞こえ、ふと目を上げると、丸窓に銀座の高層ビル。。。

解体中のため、座っていると、工事の音や振動も直で身体に感じ、カプセル本体と一体になっているのも、実にこの「一期」の楽しみです。


そして、場が決まると、茶道具・・・

風炉先屏風」という茶席では「結界」(茶道具の空間)を作る屏風を、

 

置くか?置かないか?

考えました。

基本的には、扉など人が歩く可能性がある一角でなければ、「風炉先屏風」は不要と考えます。。。しかし、ここではあえて「結界」を作ろうと、背の高くない必要最小限のものを用意しました。

それにより、「茶の空間」をお客様と共有できたら、と考えたからです。

そこで、「曳舟(ひきふね)」という私が内弟子として住み込みで茶道を学ばせていただいた師匠の画のあるものを選びました。

これは、宗家が代々得意とする画題で、

 

舟に乗っている人から見ると、引いている人はふびんにも見えるのですが、、、大綱禅師は以下のように詠んでいます。

「引人も 引かるる人も 水の淡の 浮世なり・・・」
(舟を引く人も 引かれている人も 同じく水の泡のように儚い現世の姿)

禅や茶の境地から見ると、変わらない、同じだということです。

この「一期」の場に、曳舟で結界を作るのが似つかわしいかなと据えました。

他の茶道具はあっさり決まりました。

茶碗は、「青」にしよう。
そこで、秋景(加藤一房)さんという常滑の作家さんに、「青」の茶碗を依頼しました。

明るい青は、すでにこの空間に敷き詰められているので、少し黒味かかった落ち着いたもので、とだけお願いすると、、、

AURORAが出来てきました。

暗い夜空の「黒」が底に見え、上部に向かってオーロラの光がゆらめいているかのように白土が走り、その周りは「夜の青空色」に染まっているという景色が茶碗に描かれています。

オーロラも美しく人の心に残りますが、一瞬一瞬で姿を変え、消えゆくものでもあるので、ここで茶を点て、飲んでいただく器として、まさに相応しいもので、驚きました。

そして、他は「唐金の皆具」を用いました。「皆具(かいぐ)」とは、水指と柄杓立と建水と蓋置がそろっている茶道具で、お茶の世界では、「真」、わかりやすく言うと正統的な、フォーマルな道具です。

それを今回用いようと思ったのは、「茶室」でない場であるからこそ、「真」を合わせてみようかという試みと、もう一つ理由がありました。

実は、この道具は、この茶会のきっかけを作ってくださった、カプセル住人の方のお母様の形見でもあったからです。

長板という黒い漆の板の上に道具を乗せ、空間的に運ばないで置いておく方が、お客様にとっても狭さを感じさせないかと、「総飾り」(すべて使う道具を飾り付けておく)という形にしました。

しかし、まだこれを使うと決める前に、まずは焼き物は時間がかかるので、茶碗と蓋置を作家さんに依頼していました。

そのため、蓋置も一つできてきたのです。

「皆具」を使うことを決めたので、では、この蓋置は別な機会にしよう、、、と考えました。。。が、、、

あれ?
よく見ると・・・

丸窓のような形をしている。。。

これは全く作家さんは意識していなかったことなのですが、偶然、この形を作っていただけたようで、、、

それなら、と、今回は全てセットの「皆具」ですが、蓋置のみ、こちらに変えてみました。

そして、道具が決まると、菓子に悩む、、、

菓子と掛物のお話は、、、当日いらしてくださった方のみぞ知る、というお話で終わるのも面白いかなと思いますが、

この茶会は、映像プロデューサーで、カプセルの住人のマサ氏が動画で記録くださったので、いずれか、公開くださるかと思います。

茶杓と茶入れ(茶器、棗)は、「拝見」と言って、直接お客様の手に取っていただき見ていただいたので、こちらも、説明は別稿にて。

抹茶は?
最初から「これ」と決めていたものがありましたので、それを。

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一期の茶会 会記



 

最後に、この茶会を実現してくだいましたお部屋のオーナーの前田様、そしてマサ様、煎茶席をご担当くださった石部様、スタッフの皆様とご参加くださった皆様にお礼申し上げます。

吉野亜湖(茶道家