大正10年「茶業番付」日本茶の未来のために

茶業番付

大正十年二月十八日発行

静岡県茶業組合総合会議所から

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大正10年「茶業番付」

 

第一次大戦後、貿易が落ち込み、当時の静岡のお茶は、海外へ向けた輸出茶の製造が主でしたので、組合が「茶業宣伝隊」を作り、この大番付を持って巡回し講演を行ったそうです!(『静岡県茶業史』731頁)

発展」と「滅亡」に分かれています。

 

発展横綱は?

末を思う茶業者

滅亡横綱は?

近慾深い茶業者

 

目先の欲でもうけていては日本茶業は滅亡の一途をたどる、

日本茶の世界全体の未来のためにことを成しなさい、ということですね。

 

その日本茶の未来のためには、

横綱「ミル芽摘み」とあります。

「ミル芽」とは、もともと静岡の方言で、若い芽(やわらかい新芽)という意味だそうですが、

 

輸出を通じて、静岡の茶の生産技術があがっていくと、全国各地に静岡の茶師たちが指導に行ったりするので、この言葉は全国の茶産地の関係者には浸透しているようです。

 

やわらかい新芽を摘むことで、当時は「在来」のお茶(品種化されていない)でしたので、それぞれの木で、新芽が出てくる時期がずれます。

 

硬くなってしまった葉ではなく、やわらかい葉を摘みなさいという指導です。対して、「滅亡」では、「硬葉(こわば)採り」とありますね。

 

大関の「新しき葉の製造」とは、できるだけ摘んだ生葉をすぐに蒸すことで、良い茶となるということです。当時、摘んできた生葉を置きっぱなしにして次の日製造ということもあったようですので、それをいさめています。滅亡の「生葉を長く貯える」と対になっています。

 

小結の「能力以内の製造」とは何でしょうか?

製茶機械の能力よりもたくさんの茶葉を投入して製茶する農家さんが当時多かったのですね。早くいっぱい作りたいとう気持ちだと思いますが、それはダメですよ、と伝えています。

 

滅亡の小結「揉捻機の使い過ぎ」とは?

大正10年『静岡県茶業史』を読むと、当時の揉捻機について書いてあります。

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静岡県茶業史』大正10年

当時は、長く使いすぎるのは良くないという指導があったようです。

 

そして・・・

「こやし」は、わかりますよね、肥料です。

ちなみに、下段の「やけ葉」とは、寒さにあたり茶葉の色が変わってしまうことだそうです。

・・・・・・

茶商さんにも一言ありますね。

前頭性を見て買ふ商人

きちんと良いものは良いとして、悪いものは逆に買わないで教えてあげる。決して「悪い茶買いの商人」にならないように。量が欲しいからと言って、悪い茶を買ってしまえば、農家さんがまた悪い茶を作るという茶業界が揃って滅亡の道にまっしぐらということです。

生葉も「差別」して買うように言ってますね。

 

一段下の前頭に「製茶の先買い」が滅亡の道だというのも、製茶が終わって、きちんと見極めてから買うこと、それが日本茶業界の未来が明るくなる、その責任がひとりひとりにあるのだということを自覚させようとしています。

これは大正時代の番付ですが、実際に昭和のお茶がとても売れた時代も、先買いがあったと聞いています。

 

あと、くすっと笑ってしまうのが、「買い手をゴマカス合組」です。合組とは、いわゆるお茶のブレンドのことですが、ごまかす方に頭と時間を使うなら、美味しく良質な茶にする方向に全力で向かおうという、すごくシンプルですが、当時はさまざま難しいことだったようです。

 

「年寄」に書いてある、日干しや鉄ぼいろ、などは当時の製法として静岡では輸出茶に向かないと禁止されます。他の県では特に厳しく取り締まらないのですが、静岡県は、検査官に警察を同行させて、このような茶を作ろうとする農家さんを取り締まったという歴史があります。

 

ひとつひとつ読んでいくと、お茶だけでなく、まさにそうだなあと思うものもあります。先人の工夫と歴史を読める資料です。

 

日米の輸出茶業史を研究されているロバート・ヘリヤ先生(ウエイクフォレスト大学)が、日本は米国での輸出不振時に、不況が主たる原因でも、内に原因を求め、改善する、ということを指摘されていましたが、まさにその通りですね。

 

まだ、静岡のどこからの工場でも残っていたりするのでしょうか。

こちらの資料は、個人所蔵品です。(公開許可済)

 

上記は、facebookで開催している「オンライン日本茶勉強会」で石部健太朗氏(日本茶インストラクター、茶商)が解説くださった内容のメモです。

 

良いお話しでしたので、皆様と共有致したくこちらに。

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吉野亜湖(茶道家・茶文化研究者)

静岡大学 非常勤講師

静岡県立大学 社会人フェロー

ふじのくに茶の都ミュージアム客員研究員