「煎茶」と書いて「いりちゃ」と読む?ー明治の茶業書『製茶新説』から

前回、茶の木に「雄」「雌」があるということで、ご紹介した明治の茶業書『製茶新説』は、明治六年の刊行ですから、幕末くらいから明治初期の日本茶について読める本だと思います。

そこで、この書にある明治初期の製茶法について、まとめてみました。

すると、煎茶と書いてある製法は、なんと「センチャ」ではなく、イリチャと読ませているのを見つけました。(以下要約)

煎茶(いりちゃ)の製法は、生葉を平釜に入れて二股の棒でかき回し、(よれ方が不十分で乾燥しすぎていたら水を加え)水気が七分ほど抜ければ、渋紙の上に広げて日陰で乾燥させ、その後、助炭で焙り上げて乾燥させる。(二十ウ)

 

この「煎茶(いりちゃ)」は、明治初期にはすでにあまり見られない製法で、「青製」が広まる前の製法だとあります。

では、「青製」とは?

・青製は、「中古」からの製法で、蒸葉をの上で揉んだ後、焙炉で揉みながら乾燥する。(十九オ)

 

・その省略版では、の上で揉んだ後、そのまま筵の上に広げて日乾させ、再び揉み返し、焙炉の上で乾かす。これは早ごしらえの手法なので、青製より品質は劣る。(二十)

 

青製は、筵(むしろ)を使う、というところが、特徴です。

 

そして、青製は「本製」より劣るとあります。

青製は、本製よりも早く仕上がるが、飲むと一煎目で香気が出尽くすため、煎がきかない。本製焙炉でやわらかく揉むため、徐々に香気が出て上質な仕上がりとなる。

 

手揉み用の焙炉自体も、「本製」と異なるそうです。

 

本製とは、現代の手揉み製法に近いと思われます。

要約すると、

 

摘採した新芽「三葉」を蒸した後、団扇で水気をちらしながら冷ましたら、焙炉(助炭の上)で揉みながら乾燥させ、水気が無くなったら、脇焙炉に移して更に乾燥させる。(十三~十四)

 

(以下の図も参照)

 

本製が最も「佳品」なので主体に記すとありますが、まだこれが「煎茶(せんちゃ)」の製法という意識はないようです。

面白いですよね。

 

そして、晩茶の製造法や、え?と思わせる「くさらせる」という製法もあるので、また別稿にてご紹介いたします。

 

この本は実際に行われていることを書いている、とあるので、当時の製茶について参考になります。(つづく)

『製茶新説』茶製法之事より

『製茶新説』茶製法之事より

『製茶新説』茶製用機械之総図より

『製茶新説』(国立国会図書館デジタルライブラリー)



吉野亜湖

静岡大学非常勤講師

ふじのくに茶の都ミュージアム客員研究員

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